アリスの創作広場

小説家志望のアリスです。作品はフィクションです。実在の個人、団体、法令、法則とは一切関係ありません。

怪物

 その怪物は十年と少し前に生まれた。

 怪物には名前があったが、その名前で呼ばれても自分のことだとは思えなかった。怪物と呼ばれたときだけ、自分のことだと認識できた。化け物と呼ばれることも多かったし、それが怪物という名前と同様に、自分のことなのだとわかっていた。怪物は一人だった。一人でいることが怪物にとっては当たり前だった。

 

 

 怪物は女性の家にいた。狭い家だった。怪物を産んだ人間と暮らしていた。怪物はお母さんと呼んでいた。少し前までは、お父さんもいた。お父さんはいなくなってしまった。小学校に通っていたころだった。

 その後は、母親と話すこともなくなった。母親も家にあまり戻ってこなかった。怪物は飢えた。飢えるのは嫌だった。食欲を満たす方法を探し始めた。

 

 *

 

 失敗を繰り返す中で、怪物は学習した。一度きりの欲望にかられると、よくない結果になる。飢えていても我慢する。目の前にエサがあっても我慢する。欲望を隠し、表情を自由に変えられるようになった。

 

 怪物は小学校の時に、女子と付き合った。女子には興味がなかったが、女子の家に行くと、美味しいものをたくさん食べられた。だから、女子が好きだった。そして、別の欲望も芽生えてきた。服の下はどうなっているんだろうと興味がでてきた。我慢は長く続かなかった。

 女の子の親に知られてしまった。女の子にけがをさせたわけでもないのに、いろんな大人に叱られた。久しぶりに会った母には、面倒を起こすな、と言われた。怪物も面倒は嫌いだった。

 中学生になった。うまくやっていたはずだった。お金の使い方も覚えた。が、失敗をした。また怒られた。そして、転校をすることになった。

 怪物はさらに慎重になった。怪物は学び、もう失敗をすることはなくなった。

 

 *

 

 転校した学校で女子に告白され、つきあうことになった。エサが向こうからやってきた。裕福な家の子だった。食べ物も、お金も、そして若い体も自由にした。一年近く付き合った。でも終わった。女の子が妊娠した。大人たちに知られたくなかった。お腹の子さえいなければと思って、怪物は行動を起こした。女の子には化け物と言われた。そして、怪物の前から女の子は姿を消した。

 

 高校に進学し、怪物は三人の女性とつきあった。いずれも、一年もしないうちに、怪物が怪物であると気づく。そのたびに、怪物は大人に知られないようにしてきた。そして、次の女性を探すのだった。

 

  *

 

 怪物が成人した。いろいろな女性とつきあった。看護師、美容師、会社員、フリーター、年上、年下、外国人。どの女性と付き合っても、欲望の対象でしかなかった。食べ物をくれる、お金をくれる、性欲を満足させてくれる。

 

 その女性は、怪物の母と似ていた。食べ物、お金はもらったが、性欲は湧かなかった。怪物と呼ばれたりはしなかった。事故があった。交通事故だ。しとしとと雨の降る日、女性が死んだ。そして怪物は初めて泣いた。