アリスの創作広場

小説家志望のアリスです。作品はフィクションです。実在の個人、団体、法令、法則とは一切関係ありません。

CHANGE

 「あなた、真矢先輩じゃないですね」

 男子の声が聞こえた。真由が自動販売機から、ジュースを取り出そうと、短いスカートの裾を押さえ、かがんだ時だった。真矢と真由は別々の高校に通う双子の姉妹だ。

 真由は誰かに声を掛けられるなんて思っていなかった。驚いて、少し動きを止めてしまった。体を起こして、声の主の方を向く。ここの生徒だ。背は真由より高いが、男子としては平均的だろう。制服は着崩していない。

 先輩と言われたからには下級生か。三年はもう帰宅していると聞いていた。いったいこの子は誰だろう。真矢以外は制服を借りてここに来ていることを知らないはず。真矢が誰かに言ったのだろうか。そんなことはないと思うが、確信は持てない。真矢の彼氏かもしれない。

 「何のこと?」

 「真矢先輩なら、いまデート中ですよ」

 「えっ、どういうこと?」

 「LINEです、これですよ」

 「LINEがどうしたのよ」

 「ほら、これ、ついさっき届いた写真です」

 「写真が何?」

 「真矢先輩の写真です。彼氏が撮りました。真矢先輩は、いま彼氏とデート中です。」

 「私に似てるけ人が映ってるようだけど、別人でしょ」

 「確かに、写っているのが真矢先輩とは限りません」

 「ほら」

 「でも、もし仮に、写真に写っているのが真矢先輩だとしたら、あなたは一体誰なんでしょう」

 「だから、私が真矢よ」

 「証明できますか」

 「何であなたに証明しなきゃいけないの?」

 「別に嫌ならいいですけどね。ただ、真矢先輩のふりをした誰かが今、僕の目の前にいるとなると、これは先生に知らせといけないです。不法侵入者ですからね。」 

 男子が顔の向きを変える。視線を追うと、その先には教職員がいる。

 「先生でなくてもいいんですけどね。生徒会室が近いのでそっち行きませんか」

 この子は生徒会なのか。私のことを先輩と言っているから一年か、二年。この落ち着き具合は一年には見えない。

 今日は、もう三年は下校しているはずで、他の知り合いに会う心配は少ない。この場さえ、切り抜けられればいい。

 「だから、私は真矢だって言ってるでしょ」

 「確認します。あなたは、三年二組の石倉真矢さんで、間違いないですね」

 「そうよ。私は石倉真矢よ。もう付きまとわないでよ。人を呼ぶわよ」

 この男子と話していても、切りがない。真由は再びかがんで、自動販売機からジュースを出す。汗をかいている。

 「今わかりました。石倉、真由さんですね。真矢先輩の双子のお姉さんですね」

 「しつこいわね、あんた。私は真矢よ!」

 「じゃあ、この人はだれなんでしょう」

 男子が、スマホを操作し見せつけてくる。さっきとは別の写真だ。教室で女子数人がふざけあってる様子。

 「私よ」

 「それはあり得ません」

 「何で?」

 「この写真はこの前の期末テストに撮ったものです。最後の科目のテストが終わった後に、クラスメートとふざけているときのです」

 「だから?」

 「でも、ちょっとおかしいんですよね」

 「何が?」

 「真矢先輩の、ここ、右の太股のあたりには黒子が二つあるんです」

 「拡大するとわかりますよね」

 確かに、写真には黒子のようなものが見える。怖くて、自分の太股を見ることはできなかった。右の太股を手で押さえただけだった。

 「そして、あなたには黒子がない。ほら、失礼かと思いましたが、先ほどのあなたがこれです。飲み物を取り出すときです」

 動画を見せられた。

 「あんた、こんなんじゃ、黒子なんて分からないでしょ」

 「拡大したらわかるかもしれないですね」

 「さっきのが黒子とは限らないし、ペンか何かの汚れかもしれないじゃない」

 「そうなんですよね。だから、今ここにいるあなたを真矢先輩だと信じたい。信じる証拠が欲しいんです」

 「どうすれば信じるの?」

 「真矢先輩が双子なのはすでに知っています。双子といえども、完全に同じではないです。細かな違いがたくさんあります」

 「そうね」

 「それを、一つでいいです。身体的な特徴をひとつ教えてもらえれば、引き下がります」

 「何でもいいの?」

 早くここから逃げたい。落ち着いて考える余裕はなかった。

 「はっきりわかるものなら、何でもいいです」

 「火傷の痕。右ひじのところに小さいのがあるわ」

 男子の目の前に肘をつき出した。殴られると思ったのか、男子がひょいと身をかわし、肘に向けてシャッターを切る。

 「ありがとうございます、真由さん」

 「私は真矢!」

 「いえ、違います」

 真由の名前まで知られている。それに、こんなことをしていたら、遅かれ早かれ他の人の注目を浴びてしまう。もしかしたら、それが狙いなのか。

 逃げようとしたら、捕まれた。ものすごい力だ。

 「何するのよ、あんた、話しなさい」

 「いやです」

 「大声を出すわよ」

 「出したければどうぞ」

 「うぐっ」

 「僕も面倒は嫌いなんです」

 「だったら、放っておいて」

 「真矢先輩の双子のお姉さんが気になっただけです」

 「私は真矢!」

 「もう、嘘はやめましょうよ」

 「嘘じゃないわよ」

 「さきほどから、僕のことを、『あんた』と三回言いましたね」

 「真矢先輩なら、そんな呼び方をしません」

 真矢に下級生の知り合いがいたのか。聞いたことがなかった。

 「いつもは僕を山下君って呼んでますよね。」

 「今日だけ呼び方を変えちゃいけないの?」

 「別にいいんですけどね。そんなの細かいこと」

 「山下君は、何が目的?」

 「さっきも言ったじゃないですか。気になっただけですよ」

 「今日はもう帰るの、話しかけないで」

 「認めちゃえばいいのに。僕は誰にも言いませんよ」

 「・・・」

 「まあ、別にいいです。真矢さんのことで特別にお伝えしたいことがあります。聞いておいて損はないと思います。ここでは話しにくいので、すぐそこの部室棟へ行きましょう」

 半ば無理やりに引っ張られてしまった。二階建ての簡素なプレハブのような建物。テニス部、陸上部など、プレートが貼ってある。一階のいちばんはずれの部屋、「総合」というプレートがある。となりは「共同」というプレート。どういう意味だろう。

 男子に引っ張られ、「総合」の部屋に入る。狭い部屋だ。四畳くらいだろうか。人が二人くらい入れそうな大きなロッカーがある。その隣には棚があり、中にはポットやお菓子の箱が見える。フィギュアのような置物もある。あとはパイプ椅子が四つと折り畳小さなテーブル。スクールバッグが奥にある。この男子のだろう。

 部屋は思ったほど暑くない。エアコンらしき機械は見えない。見上げると、天井の中央から涼しい風が舞い降りてくる。公立高校なのに、こんな部屋まで冷暖房があるのだろうか。

 「ほかの部室とちがって、ここと隣だけは特別に冷暖房があります」

 真由の視線を見て、男子が疑問に答えた。

 「今日のことは他の人には知られたくないですよね」

 男子が施錠した。男子がパイプ椅子を指さした。

 「ここに座ればいいのね」

 私が座ると、男子は棚からごそごそと菓子を取り出し、口に運んでいた。

 「万が一、何かあったら大声を出してもいいですよ」

 「そんなことしないわ」

 「そうですよね」

 男子は何でもお見通しのように落ち着いている。どこまで知っているのだろうか。

 部屋のからはときおり声が聞こえ、人が通っていく。そのたびに、俊也は扉の外を気にしている。

  

 「ここで、一つ勘違いがあるようなので、それを正しておきます」

 「勘違い?」

 「真矢先輩は、僕のことを知らないです」

 「えっ」

 意味がわからない。知らないって、どういうことだろう。

 「僕は真矢先輩のことを知っています。素敵な先輩だなと思っています。ですが、真矢先輩は、僕のことを知らないです。もしかしたら、顔くらいは見たことがあるかもしれません。でも、名前までは知らないでしょう。少なくとも、真矢先輩とお話したことはありません」

 「えっ、それって、まさか」

 「そうです。僕の名前は山下じゃないです」

 「名前を教えて」

 「俊也と言います」

 「苗字は?」

 「忘れました」

 「あんた、それ」

 「まあまあ、落ち着いてください。もう一つあるんです」

 「もう一つ?」

 「真矢先輩の足には黒子なんてありません」

 「ええっ」

 「画像をアプリでいじって黒子っぽく見せただけです」

 「騙したのね!」

 「最初に騙したのは真由さんですよ」

 「もう帰る」

 「落ち着きましょう」

 立ち上がりかけた真由の肩に俊也の手。有無を言わさぬ強い力で、椅子に戻された。

 「真由さんは、重要なことを見落としています」

 「まだ何かあるの?」

 「腕の火傷跡を撮らせてもらいました。跡があるのが真矢さんだという主張を動画に収めています」

 「だから何?」

 「あなたが真矢さんだと仮定すると、定期テストの最終日に学校に来たのは真矢さんじゃないということになります。真矢さんに似た誰かが、真矢さんの代わりに定期テストを受けた。替え玉と言うことになってしまうんですよね」

 「そんな話、誰も信じないわよ」

 「そうでしょうか?試しに、先生たちに見せて判断してもらいましょうか。替え玉で期末テストですよ。退学処分にはならないかもしれませんが、停学は確実ですね」

 妹が停学、そんなバカな。いや、もしかしたら、私まで停学になるのだろうか。不安で頭の中がいっぱいになった。

 「ただ、僕としても真矢先輩を見らなくなるのは心外なんですよ」

 「だったら画像を消せばいいじゃないの」

 「そうしたいんですけどね」

 「わかったわ。私に何かさせたいのね?」

 「よかった。真由さんは物わかりがいいんですね」

 俊也が笑った気がした。

 「真由さんのことを知りたいんです。こんな制服なんて脱いじゃいましょう。真由さんの全部を見せてください」

 耳元でささやかれ、背筋が凍った。怖くて立ち上がれない。どうしよう。

 俊也が後ろから真由の体に触れる。太股に手をのせ、スカートの裾をめくっていく。

 

 そして・・・

 

     *     *     *

 

 ここからは、真由の行動により、展開が変化します。

 

 真由の選択

 1 大声で助けを呼ぶ

 2 隙を見て俊也のスマホを奪う

 3 逃げるタイミングを探す

 4 自分のスマホで外部と連絡を取る。

 5 早く終わるのをを期待し、言うとおりにする。