アリスの創作広場

小説家志望のアリスです。作品はフィクションです。実在の個人、団体、法令、法則とは一切関係ありません。

大絶滅

 それは中国から始まった。

 中国南部の内陸部にある雲南省地震が頻発するようになった。目立つものでもマグニチュードは5程度であったが、回数が尋常ではなかった。群発地震が収束する気配がないまま、噴火活動が始まった。ミャンマーとの国境に近いあたりだった。

 付近は花崗岩質の古い岩盤であった。しかし、噴火活動は玄武岩質のマグマに由来する、比較的柔らかいマグマが主体であった。ハワイの火山などで見られる穏やかな噴火である。赤い噴水が湧きあがるような穏やかな噴火に見えた。山体崩壊もなく、爆発的噴火も起きない、穏やかな噴火。ほとんど犠牲者を出すこともなく、近隣の住民も避難することができた。

 住民と入れ替わるように、火山学者や地質学者が近くに集まるようになった。この地域では珍しいタイプの噴火でもあり、マグマの噴出が予想外に長く続いたのだ。2年ほどは穏やかな噴火が続いたが、その後、噴火の規模が拡大していった。10年が過ぎても、噴火は衰えずに、すでに東南アジアは、マレーシア、インドネシアを除き、ほぼ溶岩に埋め尽くされてしまった。

 地球深部、「外核」と呼ばれる部分は溶融状態の鉄、ニッケルで成り立っている。地球の自転に伴って流れが生じることで、磁場が生じる。ダイナモ効果である。外殻の外側には鉄より軽い物質、つまり岩石の層があり、マントルと呼ばれる。地球が誕生した46億年前から、放射性物質の働きで地球内部は高温が保たれている。しかし、地球内部の温度分布は均質ではない。部分的に高温となった岩石は非常に長い時間をかけて、ゆっくりと移動する。中には部分的に溶融することもある。地球表面のプレートが沈み込む代わりに、高温のマントルが大量に上昇してくることがあり、プルームと呼ばれる。

 東アジアの深部から大規模なプルームの上昇がはじまっていたのだ。スーパープルームである。地球の歴史では過去にもスーパープルームの上昇で気候変動が起きていた。2億5100万年前に起きた大量絶滅もスーパープルームが原因となった可能性が高い。当時の大量絶滅では90~95%の生物種が絶滅している。古生代末期の大量絶滅と同じことが起きるのだろうか。

 地球規模の影響が出始め、温暖化が加速した。火山ガスに含まれる二酸化炭素や、二酸化硫黄などの温暖化ガスが噴出。酸素濃度も低下し、生態系が崩れ始めた。

 

 22世紀に入ってからは火山活動は収まったが、食料不足と健康被害、疫病の蔓延により、人類も絶滅に瀕していた。海面上昇により、日本でも地形が大きく変わってしまった。ライフラインは壊滅し、国家は体をなさず、通信手段もない。

 日本では1億人以上いた人口が数万程度までに減ってしまった。20名から50名程度の小集団になり、自活するようになった。国家も法律もない世界。誰もが、生き残ることに必死であった。

 

 21世紀最後の年に生まれた直光は長野の諏訪湖の北岸で暮らしており、今は諏訪村と自称している。

 諏訪村から最も近い村でも、10km以上離れており、しかも道は荒れている。交流はほとんどなかく、食糧などをめぐる争いが散発的にある程度だった。友好的な関係を築いた村同士で、緩やかなネットワークがあるのみだった。

 直光が14歳のときに諏訪湖の南西にある伊那地方から移動してきた集団が、諏訪湖南岸に住み始めたため、直光の村は区別のため北諏訪村と呼んだ。移住してきた集団は南諏訪村とした。南諏訪村は男性中心の20名ほどの集団だった。女性は10代から20代の6名だけで、日本語を話した。男性は下は20代から上はかなりの高齢のものまでいた。南諏訪村の男性は、外国語を話す人々が多かった。

 六人の女性たちも大きな荷物を抱えていた。腰を紐ようなものでお互いを繋がれていて、囚人や奴隷を護送しているように見えた。うち五人は十代後半から、二十代くらい。うつむき加減で、憔悴していた。一人、最後尾に繋がれていた十歳くらいの少女だけが、前をしっかりと見ていた。

 100年前と違い、医療施設は使えない。重い病気になると普通は助からないのだ。人口ピラミッドも急激に形を変え、富士山型の三角形になっている。人口ピラミッドで統計を取れるほどの人口がいるわけではない。しかし、子どもの数が多く、高齢ななるほど減っていく形である。出生率も100年前とは比べ物にならない。諏訪村では一人の女性が5人以上の子どもを産む場合が多かった。40年以上生きる女性はまれだった。

 この時代はどこの集団でも女性は大切にされた。特に若い女性は、次の世代を育むという意味で集団にとっては宝であった。南諏訪村の女性の人口構成を知った時は奇妙に感じた。30代以上の女性がいないのはどういうことだろうか。

 さらに奇妙なのは、男女とも10歳以下の小さな子供がいないこと。これは、ここ10年は子供が生まれていない、あるいは生まれても亡くなってしまっているということだ。

 

 

 ◆

 

 南諏訪に村ができて、1週間が経ったころの夜明け前に訪問者があった。

 11歳のメグミだった。メグミは南諏訪村で最年少の女の子だった。転がり込むように俺の家にやって来た。北諏訪村に助けを求めに来たのだ。全身に擦り傷や打棒の跡が見えた。寒さに凍えるリスのように全身を震わせていた。

 水をあげると、一気に飲み干した。落ち着きを取り戻してから、ぽつりぽつりとメグミの置かれている状況を話してくれた。

  メグミはもともと静岡の浜松の村で生まれ、暮らしていた。諏訪村と大差ない暮らしのようだった。今から一年くらい前のある日、海から大勢がやってきて、若い女性たちが攫われたという。メグミもその中の一人だ。他にも3人攫われたらしい。すべて若い女性ばかり。

 居住地を見つけると、メグミを除く女性たちへの乱暴が始まった。昼間も見張りがいて、逃げだすのは難しい。逃亡を試みて、悲惨な目に遭った女性もいた。メグミは逃げ出すチャンスを窺っていたと言うのだ。

 

 ◆

 

 その後の南諏訪村との争いが起こり、お互い仲間を失った。争いに敗れた南諏訪村は甲府方面へと逃走したと聞かされた。全滅させたという噂も聞こえてきたが、本当のことはわからない。三年たったが、奴らの情報は入ってこなかった。

 直光は17歳の春を迎えていた。