アリスの創作広場

小説家志望のアリスです。作品はフィクションです。実在の個人、団体、法令、法則とは一切関係ありません。

サイコ 01

 先週の衣替えで体も軽くなった。昼過ぎの太陽からは暴力的なまでの日光が降り注ぐが、この時期の昼過ぎは、教室の奥まで日が差すことはない。

 「サイコキネシステレキネシスの違いはわかるか?」
 国語の授業が間もなく終わろうとするときに、太い声で北川先生が聞いた。
 「何それしらない」
 「同じじゃねーの」
 「初めて聞いた」
 みんなは口々に勝手なことを言う。
 「psychoと書くとサイコと読む。プシチョじゃないからな。このプシチョ、じゃなくてサイコは精神とか心理って意味だ。心理学のことをサイコロジーというのもこれだ」
 俺も調べたことがあるし、それくらいは知っている。
 「で、teleは遠いという意味だ。テレフォンは遠くの音、テレビジョンは遠くの映像だな。そんで、運動を表すkineticからキネシスがきてる」
 めずらしくクラスのみんなが話をおとなしく聞いている。
 「サイコキネシスは精神の力で物体を動かす。テレキネシスは離れた物体を動かすってことだな」
 「先生、じゃあ、磁石とか重力とかもテレキネシス?」
 「いや、それは違う」
 「えー、なんで?」
 「俺も知らん。正式な言葉じゃないからな。両方合わせて精神力で離れたものを動かすって意味だ。ま、同じものと思っていい。似非(えせ)科学の代表的なものだが、もし仮にそんな力が実在したらどんなことに活かせるか、それを来週までにレポートにして提出な」
 「えー」 「うわ、めんど」
 一斉に非難の声。
 「文句言うなよ。本当にあるのなら、カワイイ女の子のスカートを片っ端からめくれるんだぞ。すごいじゃないか」
 女子からはイヤらしいとさげすむ声が出たが、男子は目を輝かせているものもいる。単純なものだ。いや、実際はそんなに単純ではないんだけどな。
 「おっと、もう一つ。日本にはサイコキネシスを公式に研究しているところがないんだ。つまり、サイコキネシスをちょいと研究すると、簡単に日本代表、日本一ってことだぞ」
 何か、適当なことを言ってる気がするけど、それって日本じゃ誰も相手にしてくれないってことだよな。

 

 その能力の存在をはっきりと感じたのは中二のときだった。
 強く念じると離れたものを動かすことができる。つまりサイコキネシスだ。

 サイコキネシルは自分でコントロールできる。キッチンのテーブルに座ったまま、離れた冷蔵庫を開け、牛乳を取り出し、テーブルへ引き寄せる。グラスに注ぎ、冷蔵庫に戻し、扉を閉める。
 透明人間がスローモーションでやっているかのようなイメージだ。
 誰もいない場所で自分が意識してサイコキネシスを使う分にはいいが、困ったのは寝ているときだ。夢の中の映像に反応してしまうらしい。そのため、朝起きたときの部屋の中はぐちゃぐちゃ。いつも怒られ、家族からはうとまれていた。高価な電気製品も壊してしまい、完全に家族の厄介者だった。
 サイコキネシスを使わないように努力しようにも、寝ているときはどうにもならない。対策できるとすれば、身の回りに壊れる者は置かない。特にガラスはすぐ割れるので注意だ。それから、小さなものは頑丈な入れ物にしまう。他にも思いつくことは実行し、家具の被害を減らすことはできたが、完全になくすことはできなかった。
 それと、この能力の特徴、いや、ルールと言った方がいいだろう。そのルールを把握するにつれ、暗闇に包まれたような未来に光がさしてきた。ただ、そんなことでは家族との距離を縮められなかった。